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意見交換会「地域と美術」

趣旨
戦後、日本には数多くの美術家団体が結成されました。団体に所属する美術家たちは、それと並行して自らが住まう地域においても、県展や市展といった地方展の運営に携わりました。さらに教師として美術教育にも携わり、地域の学生や生徒たちに作品の制作指導を行ってきました。地域に密着したこうした地道な活動は、戦後の日本に数多くの美術愛好家を育てることとなります。
一方で1970年代に入ると、画廊での個展を中心に発表活動を行う美術家が増えてきます。彼らは都市部で評価を得るようになると、その後、地方に戻ることなく海外での活動へと展開してゆきました。その結果、国際的に活躍する美術家が近隣に住んでいても、その存在がほとんど知られていないという状況が起きています。今日の美術が人々の関心を集めなくなったひとつの理由として、このような背景があるように思われます。
この意見交換会では「地域と美術」をテーマに、久喜市およびその周辺に在住する団体展系と個展系の美術家が語り合います。そのことで、これから美術は地域との関係をどのように再生していけるのかをともに考えます。

日時

2011年9月11日(日) 午後2時~4時

会場

いきいき活動センターしずか館103会議室

■パネリスト
齋藤馨、中島睦雄、本多正直、小高一民、小林晃一、野原一郎
■司会
松永康
■意見交換会の趣旨
松永:「分岐点」は今年で3回目となる。そこで、今後どのように展開するかを考える時期となった。
この展覧会は地域に美術を根付かせることを第一の目的としている。「美術が地域に根付いていない」ということがよく言われるが、実はかつて地域に美術が根付いていた時代があった。それは、主に中央の団体展に出品していた美術家たちが、それぞれの地元で県展や市展、美術教育等を通して身近な人々に美術を普及していたころである。
ところが次の世代の多くの美術家は、美術家団体に属さず個展を主たる発表の場とするようになった。こうした個展系の美術家は、中央で評価を得るとその後は国際的な活動の場へと展開していった。そのため彼らは、自らが住まう地元ではほとんど知られない存在となった。そしてこれが、ある時期から美術が地域と距離をおくようになった最大の理由ではないかと思われる。
そこで改めて、美術を地域に根付かせるため今後何が必要なのか、近隣に在住する団体系の美術家と分岐点の出品者とで意見交換を行うこととした。


■地域に美術を根付かせるため団体展系の美術家がこれまでどのような活動をしてきたか
齋藤:かつては学校教育の一環として写生コンクール等をやっていた。今では美術の時間数が減り充分な教育活動ができていない。また団体展では、美術家を目指す者の出品が減り、実験的な意欲作が減ってきている。そのため団体展自体の構造を考え直す必要が出ている。
中島:団体展には、先輩から誘われて出品するようになった。また教師としては、人間教育としての美術教育を行ってきた。
本多:美術家団体は人間関係によって成り立っており、先輩からの助言や同世代の出品者との競争により自分は育てられた。今後、たとえば彫刻シンポジウムなどを行うことで地域との関わりを深められるのではないか。


■「分岐点」を3年間やって感じた地域に美術を根付かせることの難しさについて
小高:自分は、他の教師にない美術教師のユニークさに惹かれた。自分の置かれた境遇を活かして人々との接点を作り出そうとしている。
小林:自分のアトリエを使ってワークショップ等を展開させてきた。また地域を巻き込んだイベントを開催し、人々のネットワークを構築している。美術が心の交流を促すための媒介となったらよい。
野原:何人かの美術家との出会いによって自分の方向が決まった。身近で展覧会が開かれることで、自分のやっていることを近隣住民に知ってもらう機会となった。


■休憩


■団体展系の人たちが行ってきた地域に美術を根付かせるための活動と、分岐点で行ってきたそれとの比較
松永:前半の話を聞き、団体展系が主に作品を作る人の輪を拡げてきたのに対し、個展系は一般の人との関係を拡げることに意を用いていることが見えてきた。市展、県展を含めて団体系展覧会への若年層の応募が激減している一方で、今日の若年層の間では音楽や舞踊などのパフォーミング・アーツが盛んに行われるようになっている。こうした状況の背景には、個別化を求めた時代からつながりを求める時代へという、社会的な意識変化があるように思われる。


■地域に美術を根付かせるため今後どのような活動が有効か
中島:人々との出会いの場づくりのため陶芸教室の実施が有効である。
齋藤:ただしそれは、あくまでも趣味で創作する人の集まりとなる。
本多:陶芸に限らず、さまざまなワークショップを続けることで人々との関係が深められる。
小林:何かを作るというより、自分自身を振り返る手段としてワークショップを考えたい。
野原:ワークショップを中心とすると、ものを作ることに関心のなくなった若い世代へのアプローチが難しい。


■まとめ
松永:最終的には、美術家がそれぞれの持ち場でできることをやっていくしかない。一方で利益を共にすることについては、立場を超えて協働していく必要がある。


■会場からの意見
鈴木:美術活動に対して行政にもっと支援してほしい。
齋藤:第一に、多様な作品に対応できる展示会場がほしいと考えている。市役所に再三、働きかけを行ったが、まったく反応がない。
菅野:自分の勤める学校では「門柱ギャラリー」という名の公開展示場所を設けている。多くの人々が作品を公表することで交流の機会となればよい。
野口:自分は陶芸工房をやっている。習いに来る人たちは公募展に応募するようになるが、入選しないとすぐに制作をやめる。


■地域に美術を根付かせるため、団体展系の美術家と個展系の美術家がその垣根を超えて今後どのように協力し合えるか
野原:美術作品は本来、個人の家の中に置かれることでその機能を発揮してきた。絵画は最もそれがしやすい媒体である。
小林:ていねいに仕事をすることで、人は多くのことを学ぶことができる。美術を通してそれを伝えたい。
小高:一般の人々にアプローチするのが基本だが、それをより効果的に行うため美術家どうしの連携が必要だ。
齋藤:今、久喜に必要なのは、まず作品を展示できる場所である。行政に対する要望活動を共に進められたらよい。
中島:自分にできることを少しずつがモットーである。
本多:彫刻シンポジウムの実現に向けて、少しずつでも基盤を整えられたらよい。

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